研究業績

The number of research papers published every year
5 in 2014 / 56 in 2015 / 82 in 2016 / 63 in 2017 / 84 in 2018 / 45 in 2019
335 in Total

総括班

研究項目内および研究項目間の共同研究の推進を図るために,全体班会議を4回開催した.班会議に合わせて総括班会議を開催した.また,技術講習会を計14回開催した.その結果,全体班会議と技術講習会が契機となり始まった共同研究が16件あり,共著論文20報に結実した.領域の紹介と成果の公開の場として,3回の国際集会と学会年会においてワークショップを10回開催した.領域全体のホームページを公開し,ニュースレターを12号発行した.
 BBA誌特集号に27報の論文として領域の成果が掲載される予定である.計画班員だけでなく公募班員による新しい測定技術の開発が活発に行われたことに,領域として活動した意義があったと考える.その背景には動的構造測定に単一の強力な手法がなく,対象に合わせた測定法を工夫する余地が大いに残されていることがある.本領域で産み出された測定技術は“タンパク質分子が形を変えながら機能している姿”を活写することを可能にし,今後,常識を覆す発見につながることが期待できる.

動的構造生命科学研究領域における海外ネットワーク形成を目指した支援活動

新学術領域研究「動的構造生命」の学術活動の範囲を国際的に広げることを目指した.4年間の活動期間中に,海外からの講演者の招聘4件5人,海外からの共同研究者やポスドク,学生の受入13件13人,サバティカル教員の受入1件1人,共同実験のための教員や学生の派遣1件4人,国内国際学会への日本在住外国籍学生の派遣1件3人,国際版の技術講習会への海外からの参加の支援6件31人,公募班員に対する旅費支援11件11人を行った.
 当初は海外からの優れた研究者による講演のための日本への招聘旅費を中心に考えていたが,実際に運用すると国際連携に実質的に役立つ運用ができた.教員や大学院生の海外研究室での実験のための旅費支援や,海外からの研究者の短期および長期滞在(2週間〜1年間)のサポートなど,通常の研究費では難しい活動を支援できた.本新学術研究により開発・改良された新測定技術を実際の研究現場に取り入れてもらうことの重要性に鑑み,国際的にも普及活動ができた.

神田大輔(計画班A01)

(概要) 蛋白質結晶中に結晶コンタクトが無い空間を意図的に創り出し,柔らかい構造(ループやリガンド)を配置して,その動きの空間分布を差マップ中の電子密度として解析する方法を開発した.鍵となるのはタグ蛋白質と対象蛋白質を一本の長いヘリックスを用いて硬く接続することにある.Tom20蛋白質に結合した状態のプレ配列ペプチドの運動の可視化と,Tim21蛋白質の結晶コンタクトにより変形したループ2の溶液構造の推定に適用した.
(意義) 蛋白質の結晶中では分子同士が接触して3次元の結晶格子を作っている.蛋白質の中には一部の構造が柔らかく創られているために,結晶中では結晶コンタクトにより容易に変形し,正しい形(溶液中の平衡状態)をとっていない可能性がある.柔らかく動的な部分の構造変化は蛋白質の機能と密接に関連していることが少なくないことを考えると,「柔動構造の変形・固定問題」を真剣にとらえ,実験的に解決する手段を考案することは重要である.

安藤敏夫(計画班A01)

(概要) 本研究の目的は大きく2つに分けられる。(1)高速AFMのバイオ応用研究を自ら推進す るだけでなく、班員と領域外の研究者にも装置を開放して、彼らと協力してタンパク質分子が動作する姿を活写する動的構造生命科学を幅広く新規開拓すること、(2)装置の高度化を更に進めて、従来の高速AFMでは観察不可能な分子レベルで起こる現象を観察可能にすることにある。前者については、非常に多様なタンパク質系の高速AFM観察に成功し、機能プロセスのメカニズムの理解に繋がった。後者については、高速AFMと光ピンセットとの複合機、及び、高速AFM装置に基づく超解像蛍光顕微鏡の開発に成功した。これらの応用展開は今後の課題である。
(意義) タンパク質分子は生命の機能素子であり、その機能する仕組の解明は生命現象及び疾病の理解に必須である。代表者が開発した高速AFMは機能中のタンパク質分子を直接観察することを可能にし、機能メカニズムの理解を促進する。だが、多くの対象を観察するには、多くの研究者との共同研究が必要であった。また、現在の高速AFMでさえ観察できない現象があり、装置の高度化は必須であった。本研究の実施は、多くの多様なタンパク質系の理解を可能にしただけでなく、この顕微鏡を利用できる人材の育成にも繋がった。高速AFMの高度化は新規観察を可能にした。その本格的応用は今後の課題だが、更なる生命現象の理解に貢献するものと期待される。

白川昌宏(計画班A02)

(概要) ナノダイヤモンド(ND)を使った光検出磁気共鳴(ODMR)法について、ND中でセンサーとして機能する格子欠陥(NVセンター)を形成する技術、NDによる分子特異的標識技術、およびNVセンターを用いた新規ナノ計測技術を開発した。蛋白質重合体(細胞骨格等)の単量体をNDに修飾することにより、細胞内で起こる重合過程を利用した新たなダイヤモンド標識方法を確立し、その動態を追跡した。 また、試料に剪断流を加えながらNMR測定ができる新たなRheo-NMR法を開発した。従来法に比べ簡便で、極低温プローブ装着のNMR装置にも適用でき、Rheo-NMR法として世界最高感度・分解能である。

西田紀貴(計画班A02)

(概要) 本研究では、バイオリアクター型in-cell NMR法を高度化し、細胞内生命現象のリアルタイム観測へ応用した。細胞内の主な抗酸化分子グルタチオンとTrxの両方を安定同位体標識した細胞の調製法を確立し、酸化ストレス添加に伴う酸化還元電位とTrxの酸化還元状態の変化のリアルタイム観測を行い、細胞内における活性制御機構を明らかにした。また、低分子量GTPaseであるRasの活性型(GTP結合型割合)のin-cell NMR観測を行い、野生型および発癌性変異体のいずれにおいても細胞内のGTP型割合はin vitroよりも低く抑えられており、細胞内因子の寄与を定量的に解明することに成功した。
(意義) 細胞内は多種多様なタンパク質が複雑なネットワークを形成する分子混雑環境であり、細胞内のタンパク質はin vitroとは異なる構造や活性を示す。本研究ではin-cell NMR法を高度化し、細胞内タンパク質の構造や活性変化をリアルタイム観測する手法を確立して、細胞内酸化ストレスやシグナル伝達タンパク質の活性評価に適用した。本研究成果は、細胞内生命現象の可視化のみならず、細胞内で創薬標的タンパク質に対する候補化合物の薬効を直接評価するツールとしての応用が期待できる。

杉田有治(計画班A03)

(概要) 実験等で得られる低解像度構造情報と分子動力学などで得られる高解像度シミュレーション情報を組み合わせた新しい解析手法を開発した。具体的には、クライオ電子顕微鏡と分子動力学を組み合わせたフレキシブルフィッティングにおけるアンサンブル計算や並列化手法、一分子解析と分子動力学を機械学習で組み合わせたモデリング手法などで、新規性の高い開発である。これらは分子動力学ソフトウェアGENESISの機能として導入し、効率の良い構造探索手法やマルチスケール分子モデルと組み合わせて計算を行うことができる。開発した手法を膜タンパク質やタンパク質・核酸複合体などの動的構造の解析に応用した。
(意義) 本研究は、シミュレーションなどの理論的な手法だけでは解決できない問題を実験データをうまく組み合わせることで克服する新しいアプローチである。また、クライオ電子顕微鏡の利用が今後ますます発展することを考慮すると、そのモデリングを分子動力学で高解像度化できることは大きな意義がある。実際、製薬企業などでもクライオ電子顕微鏡を用いた構造解析を薬物との相互作用を理解するために導入し始めており、それらの解析に貢献することができる。開発した手法はGENESISに導入し、今後一般公開していくため、広いユーザーが利用することができる。

塚崎智也(計画班A03)

(概要) 細菌におけるタンパク質分泌は生命必須の仕組みである。この反応には一連のSecタ ンパク質群が関与するが,どのようにタンパク質を輸送しているのかについて詳細な分子メカニズムは不明のま まである。本研究では,X線結晶構造解析や高速原子間力顕微鏡によりSecタンパク質の働きを明らかとすべく研 究を進めた。その結果,様々な状態のSecタンパク質の構造を明らかとすると同時にリアルタイム一ユニット解 析でタンパク質分泌反応を観察できる系を構築した。
(意義) タンパク質の分泌反応は,生命が生きていく上で欠かせない機構の一つである。しかし,その分子メカニズムは未だなお不明な点が多い。タンパク質の分泌反応に関わるタンパク質はSecタンパク質群であり,これらの働きを明らかとすることは生命を理解する情報を与えるため,本研究は基盤科学として意義深い。そこで,生物物理学的な手法を用いて研究をすすめ,研究の成果となる17報の英語論文を世界に向けて発表した。

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