領域発足にあたり

領域代表:神田 大輔 Daisuke Kohda
(九州大学生体防御医学研究所)
領域代表:神田 大輔 Daisuke Kohda(九州大学生体防御医学研究所)

静的ではあるが精密なタンパク質分子の立体構造は、生体機能素子としてのタンパク質の機能を説明することに成功してきました。しかしながら、生命現象の本質を理解するには、タンパク質が実際に働いている細胞環境などの現場において、過渡的にしか存在しない準安定状態を適切な手法を用いて動的に観測する必要があります。本研究領域では、磁気共鳴法、原子間力顕微鏡、結晶解析手法を新発想に基づいてさらに強力な計測手法へとバージョンアップし、新しい計算手法と集中的な応用によって検証を行います。そして、構造生物学と生命系研究者の密接な相互協力により、独創的計測技術の開発と普及を図ります。

領域の終了にあたって

 新学術領域「動的構造生命」が2014年より活動を開始してから早5年が立ちました.期間中における構造生物学分野の最大のトピックスと言えば,クライオ電子顕微鏡単粒子解析による立体構造解析が特殊な技術から一般に使える方法になったことでしょう.日本はこの分野で立ち後れているという認識であったのですが,過去一年間に多くの研究グループが成果を出し始めている状況にあり,2019年は論文ラッシュになることが予想されます.クライオ電子顕微鏡単粒子解析では,凍結状態とは言え溶液中の試料の測定になるので,原理的には複数のコンホメーションがあっても独立に解析できる可能性があります.これは動的構造生命の観点から見て重要です.しかし,現実にはこの利点を有効に使っている報告はまだまだ少ないようです.

 動的構造情報を取得することを考えると,空間分解能と時間分解能はどうしてもトレードオフの関係になります.すなわち,X線結晶解析やクライオ電顕構造の空間分解能は中〜高空間分解能ですが,静的なスナップショットになります.これに対して,溶液NMR,高速AFM,一分子蛍光観察,X線溶液散乱などの測定の空間分解能は低分解能(あるいは限定された情報)ですが,時間軸に沿った情報を得ることができます.両者の橋渡しをするには,計算シミュレーションが現時点での唯一の解決策と思われます.時間軸を備えた既存の測定法の改良が進み,望ましくは新しい原理に基づく測定法が出てくれば,計算シミュレーションの精度の向上に役立つことでしょう.

 本新学術領域研究は測定技術開発を中心に据えました.しかし,新規な測定技術の適用だけが動的構造生命ではありません.動的な視点を各自の研究対象に適用することが本領域の最終目標です.全体班会議の中で普段は聞くことがないような方法やアイディアを知ることができたと思います.転がる小球に外力が一瞬だけ加わったような状態ですが,長い目で見れば転がる位置はきっと大きく変わっていることでしょう.本領域にかかわったすべての研究者に動的構造生命の視点の重要性を紹介したことで,日本の科学研究の方向付けにある程度の寄与ができたとすれば幸いです.

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